Lv.3 オリジナルのスキルを装備する/強みと専門性の発見【経営・企画】

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「ライフタイムバリュー」と「ライフミッション」から自分の能力軸を見つける
スモールビジネスにおいて、最も大切な資産の一つに、「長く価値を提供し続ける力」があります。その力を測る重要な指標が、ライフタイムバリュー(LTV:顧客生涯価値)です。
一般的に、LTVは「顧客が生涯を通じて提供する収益」として語られますが、スモールビジネスでは、「自分の持つスキルや専門性が、どれだけ長く社会に貢献できるか?」という視点でも捉えることができます。

お客様と深く長いつながりが大事ってこと?

そうなんだ。それが〝顧客生涯価値〟の本質だね
持続可能なスキルとは何か?――ライフタイムバリューの視点
LTVの視点で考えることで、「一時的なブームや流行に依存しないスキル」を育てることができます。それは、単なる短期的な成功ではなく、長期的な信頼と関係性を築き、持続的に価値を生み出せるスキルへと進化します。
ライフタイムバリューを高める3つの視点
- 「短期的なスキル」ではなく「長く活かせるスキル」
→ 一過性の流行に依存したビジネスではなく、顧客が10年後も必要とするスキルや専門知識を身につける - 「取引」ではなく「関係性」を築く
→ 1回きりの売上ではなく、顧客と長期的につながるビジネスモデルを構築する - 「売ること」ではなく「提供し続けること」を意識する
→ 短期の売上を追うのではなく、継続的に求められる商品やサービスを提供し続ける仕組みをつくる
自分の使命は何か?――ライフミッションの視点
スモールビジネスで成功するためには、「市場に求められるスキル」を磨くだけでは不十分です。重要なのは、それが「自分の情熱や価値観と合致しているか」です。ここで役立つのが、ライフミッション(人生の使命) という視点です。
ライフミッションは、あなた自身の内側から湧き出る「本当にやりたいこと」「社会に貢献したいこと」のことです。スモールビジネスは、単なる収益手段ではなく、あなたの人生観や価値観を体現するもの。そのため、ライフミッションと一致した専門能力を見つけることが、長く続くビジネスの基盤になります。
ライフミッションを見つける3つの問い
- 「自分が心から関心を持てる分野は何か?」
→「何時間でも語れるテーマ」「苦にならず続けられること」は何か? - 「その分野で、自分はどのように貢献できるのか?」
→ 自分のスキルや経験を活かして、どんな価値を提供できるのか? - 「自身のスキルを磨き続けることで、どんな未来を創りたいのか?」
→ 自分のビジネスやキャリアが、社会にどんな影響を与えるのか?10年後、20年後のビジョンは?
ライフタイムバリュー ✖ ライフミッション = 唯一無二の専門性
スモールビジネスでの成功は、「ライフタイムバリュー(市場で長く求められるスキル)」と「ライフミッション(自分が情熱を持てること)」を掛け合わせることで、最大化します。
小規模なビジネスでは、大企業のように規模の力で勝負することはできません。その代わりに、「あなたにしか提供できない価値」を確立することが最も重要です。
ライフタイムバリューとライフミッションを掛け合わせたときに生まれるもの、それこそが「あなたのオリジナルスキル」です。
これが、スモールビジネスにおける最強の競争優位性となり、他にはないブランドへと成長していきます。

この2つを軸に考えるのね!

顧客を知り、自分を知れば最適な価値がわかるよね
- 顧客や社会と長期的に繋がれる専門スキルは何か?
- 自分が情熱を持って、本当に取り組みたいことは何か?
たとえば、教育という長期的に需要が続く市場で、あなたが熱意を持って取り組めるなら、オンライン講座やコーチングのスキルを磨くことが考えられます。継続的な価値を提供しながら、社会との深いつながりを築くことができることでしょう。
「市場に求められる専門性 × 自分が熱中できる分野」をかけ合わせることで、あなたならではの唯一無二のポジションを確立していきましょう。
芸風をつくる――5つの分析ツールやリーンキャンバスで強みを可視化【コア・コンピタンス】 3つのポイント
1)優秀さより役割が重要!さらに重要なのは芸風
スモールビジネスにおいて、「優秀さ」や「能力の高さ」が直接的な成功要因になるとは限りません。むしろ、より重要なのは「あなたが果たすべき役割」です。
この役割とは、「顧客や社会に対して、あなたがどのような価値を提供できるのか?」という点にフォーカスしたものです。つまり「あなたにしかできない仕事」を意味します。そして、その役割をより明確にし、魅力的に伝えるのが〝芸風〟です。
〝芸風〟とは何か?
芸風とは、あなたらしいスタイルやアプローチのこと。単なる技術や知識ではなく、「あなたにしか出せない個性の色」を指します。
たとえば、あるカフェが「地域一番の味」にこだわるのではなく、「ユーモアあふれるSNS投稿」を続けたことで話題を集めたとします。このカフェの強みは「おいしいコーヒー」だけでなく、「地域の人々に笑顔を届ける楽しさ」にあります。

自分にしかできない役割を考えるの?

そう。個性ある役割が価値に直結するんだ
芸風を持つことで生まれる効果
✓ 差別化より「特別化」のポジションを築ける
→ 競合と比較されるのではなく、「あなただから選ばれる」状態をつくる
✓ ビジネスの個性が明確になり、ブランディングにつながる
→ 覚えられやすく、印象に残る存在になる
✓ 顧客の信頼を得て、長期的なファンを生み出す
→ 価格競争に巻き込まれず、独自の価値で勝負できる
スモールビジネスでは、「優秀さ」よりも「独自の芸風を確立すること」が、最も強力な特別化戦略になるのです。
2)独自性と便益を紐づける
独自性があるだけでは、ビジネスは成立しません。大切なのは、「その独自性が顧客にどのような便益を提供するのか?」を明確にすることです。
独自性 × 便益 = 顧客が選ぶ理由
たとえば、手作り雑貨店が「エコ素材」を使っているだけでは、単なる特徴の一つにすぎません。しかし、「環境に優しい暮らしをサポートする」という便益を明確に打ち出せば、環境意識の高い顧客にとって価値ある選択肢になります。
独自性と便益を結びつけるためには、まず「自分の強み」を整理することが大切です。あなたが得意なこと、他と違う点を明確にすることで、ビジネスの軸が見えてきます。しかし、強みを持っているだけでは十分ではありません。それが顧客にとってどのような価値を提供できるのかを深く考え、自分の強みを「便益」に変換することが求められます。たとえば、あなたの専門知識やスキルが、顧客のどんな課題を解決し、どのように役立つのかを具体的に考えることが重要です。
さらに、それを伝える手段として「ストーリー」を活用することで、あなたの強みがより魅力的に伝わります。単なる特徴の羅列ではなく、「なぜこの価値を提供するのか?」という背景や想いを込めることで、顧客に共感してもらいやすくなります。
あなた自身の経験やビジョンを一貫したメッセージとして表現することで、ただの「商品やサービス」ではなく、あなたのビジネスは、独自性が顧客の便益と結びついた「選ばれる理由」を持つことになります。
3)コア・コンピタンスは既存知の組み合わせ
「コア・コンピタンス」とは、自社の核となる最も強力な競争優位性です。そう聞くと、「新しい発明」や「画期的な技術」を思い浮かべるかもしれません。しかし、スモールビジネスにおいては、「既存のスキルや経験をユニークに組み合わせること」こそが、最も強力なコア・コンピタンスになります。
強みの源泉は「かけ算」にある
たとえば、次のような組み合わせが考えられます。
- 「料理のスキル」× SNSマーケティング」 = 料理教室のオンライン展開
- 「デザインの知識」×「販売経験」 = オリジナルブランドの立ち上げ
- 「心理学」×「ライティングスキル」 = 行動心理に基づいた広告制作
既に持っているスキルや経験をかけ合わせることで、あなただけの独自の強みをつくり出すことができます。「優秀さ」に捉われず、「役割」や「芸風」を意識することで、独自性を便益に変え、顧客に響く価値を提供することが実現可能というわけです。

いま持ってる武器のかけ算なのね!

そうなんだ。それが強い競争力(コア・コンピタンス)を生むんだね
3つのステップ
スモールビジネスの世界では、単なる技術や知識だけでは生き残れません。では次に、専門能力を明確にし、それを価値という武器に変える3つのステップを紹介します。
① 4つのヒントから専門能力を見つける
専門能力を発見する第一歩は、自分自身の中にある「隠れた強み」を掘り起こすことです。自分だけの専門能力を明確にするために、以下の4つを実践してみましょう。
✓「好きなことを考える」
夢中になれることは、専門性を育む出発点になります。たとえば、モノづくりが好きなら、職人やデザインの分野に活かせる可能性があります。ただし、それが市場で価値を持つかを見極めることが重要です。
✓「喜ばれたり・ほめられたことを考える」
他者から感謝された経験には、自分の価値が隠れています。たとえば、プレゼンで高評価を得た経験があるなら、講師業や動画制作に活かせる可能性があります。
✓「興味のあることを探す」
まだ挑戦していないが気になる分野には、成長の可能性があります。たとえば、AIに興味があるなら、それを活用したビジネスを検討してみるのも一案です。
✓「得意なことを見つける」
自然にできることは、すでに持っている強みです。たとえば、人の話を聴くのが得意なら、コーチングやカウンセリングの道が開けるかもしれません。
✓【Lv.2 理想の世界を描く】で学んだ、専門分野と同じく各項目3つずつ考えるのがポイントです。この4つの視点を掛け合わせることで、あなたが本当に活かせる専門能力が見えてきます。
② 専門能力を分析する――5つの分析ツール
強みを見つけたら、それが本当に価値のあるものかどうかを多角的に検証する必要があります。ここでは、ビジネス戦略で用いられる「5つの分析ツール」を応用活用し、あなたの専門能力をより具体的にしていきましょう。
1.【3C分析】(市場との適合性を見極める)
- Company(自分・自社):あなたの専門能力や強みとは何か?
- Customer(顧客):その能力は、どんな人にとって価値があるのか?
- Competitor(競合):他の人や企業と比べて、何が違うのか?
2.【SWOT分析】(現状を整理する)
- 強み(Strengths):あなたの持つ独自のスキル
- 弱み(Weaknesses):不足している点や課題
- 機会(Opportunities):市場でのチャンス
- 脅威(Threats):競争環境や外部リスク
3.【VRIO分析】(持続的な競争優位性を確認)
- 経済価値(Value):そのスキルは、顧客にとって価値があるか?
- 希少性(Rarity):他にはない独自の要素があるか?
- 模倣困難性(Imitability):簡単に真似されないか?
- 組織的支援(Organization):それを活かせる環境はあるか?
4.【4C分析】(顧客目線で価値を見極める)
- 顧客価値(Customer Value):どのような価値を提供できるか?
- コスト(Cost):適正な価格で提供できるか?
- 利便性(Convenience):どのような形で顧客に提供するか?
- コミュニケーション(Communication):どのように伝えるか?
5.【5フォース分析】(市場の競争環境を把握する)
- 新規参入者の脅威:新しい競合が増えるリスク
- 代替品の脅威:他の商品に乗り換えられる可能性
- 買い手の交渉力:顧客に価格や条件を決められやすい強さ
- 売り手の交渉力:仕入先に価格や条件を左右される強さ
- 競争環境の強さ:ライバル企業との争いの激しさ
これらの分析を組み合わせることで、あなたの専門能力が「本当に市場で求められるものなのか?」を客観的に判断できるようになります。

なんだか難しいわ…

まるで呪文のようだよね。図解で見るとわかりやすいよ

③ 能力を価値化してみる――リーンキャンバスの活用
見つけた専門能力を実際のビジネスに落とし込むには、リーンキャンバスを活用すると効果的です。リーンキャンバスとは、ビジネスモデルを9つの要素で整理し、価値提供の仕組みを明確にするフレームワークです。
✓ リーンキャンバスの9つの要素
- 顧客セグメント(誰に価値を提供するのか?)
- 顧客の課題(どんな問題を解決するのか?)
- 独自の価値提案(他にはない強みは何か?)
- 解決策(どのように課題を解決するのか?)
- 圧倒的な優位性(競争相手と比べて勝てる要素は何か?)
- 収益の流れ(どうやって収益を得るのか?)
- コスト構造(どのようなコストがかかるのか?)
- 主な指標(成功を測る指標は何か?)
- チャネル・販路(どうやって顧客に届けるのか?)

この9つの要素を整理することで、あなたの専門能力が、誰にどのように価値を提供し、どのように収益につながるのかを明確にできます。特に「顧客の課題」「独自の価値提案」「圧倒的な優位性」の3つを意識することで、競争に負けない強みを見つけやすくなります。
たとえば、「得意なこと」と「喜ばれたこと」をベースにしたスキルを、「独自の価値提案」に落とし込み、特定の顧客セグメントに最適化することで、持続可能なビジネスを構築できます。
リーンキャンバスを活用することで、あなたの専門能力を「価値ある商品・サービス」として明確にし、収益につなげる道筋が見えてきます。ぜひチャレンジしてみてください。

この1枚で事業の価値が整理できるわ!

ビジネスに必要な要素を1枚でまとめられるから、とても便利なんだ
際立つ強みと専門能力を鍛え、変化に対応できる武器にする
スモールビジネスの世界では、市場の変化に適応できる者が生き残る。技術や知識を持っているだけでは不十分であり、それを鍛え続け、環境に応じて進化させることが求められます。
では、どのようにして強みを「武器」に変え、変化に適応できる力を身につければ良いのか?
強みは「鍛え続けることで」価値になる
スキルや専門性は、一度確立すれば終わりではありません。市場のトレンドや技術革新により、いまの強みが数年後には陳腐化してしまうこともある――だからこそ、「磨き続けること」が最大の強みになります。
たとえば、かつて「SEOライティング」のスキルが市場価値を持っていたが、AIによる自動生成が進化した現在では、新たな視点やストーリー性が求められるようになった――つまり、「何を強みにするか?」以上に、「どのように適応し続けるか?」が重要です。
✓ 学習のバランスを取る
スキルを磨くには、「広げる学び」と「深める学び」のバランスが大事
- 広げる学び:関連分野の知識を取り入れ、スキルの応用範囲を広げる
- 深める学び:いま持っている強みをさらに磨き、専門性を高める
✓ 実践の場を持つ
知識だけではスキルは定着しません。試行錯誤しながら実践を繰り返すことで、スキルはより強固なものになります。
- 小さなプロジェクトを立ち上げ、試しながら改善を重ねる
- 顧客からのフィードバックを活かし、より市場価値の高いスキルへと進化させる
✓ 市場の変化をキャッチする
市場が求めるスキルは常に変わる。顧客のニーズ、競合の動向、業界トレンドを意識しながら、必要なスキルを常にアップデートし続けることです。
以上のようなことを常に意識し、変化に適応できる「武器」を持つことが不可欠です。核となる技術は持ちながらも一つのスキルに依存することは大きなリスクになるため、それだけに頼るのではなく、多様な技術をかけ合わせることが、不測の事態にも対応できる力が身につきます。
スキルを「武器」に変え、どんな変化にも対応できる力を獲得し、柔軟なビジネスとキャリアを築きましょう。
それでは、次のレベルへご案内します。
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寺本 智(てらもと さとし)
小規模経営学者 | スモビジ大学長 | 小さいからこそ「個性と安定が両立」する『小規模経営学』を体系化 | スモールビジネス分野で、教育・コンサルティング・小説を執筆 | スモールビジネスコンサルタントとして、10年以上にわたり、従業員0人から20人まで(商業・サービス業は基本5人以下)の小規模企業を200社以上サポート。
活動理念は、『小さな事業を大きな主役へ』。一人ひとりが持つ個性と、経済的な安定。この2つが両立する――そんな〝小さな経営の在り方〟と、スモールビジネスを200社以上サポートした実体験から得た、「小さくても大きな成果を導くことができる」独自の文法を、小規模事業の【6つのフェーズ】と【6つのカテゴリー】に合わせて体系化。
ビジョンは、小さな事業が大きな主役となり、『個性と安定が、両立する社会』――、「一億総スモールビジネス」。
