Lv.13 経験値を得る/効果的な成長プロセスの構築【スキルアップ】|小規模経営学

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レベルを上げるための絶対項目は経験値──「余白の時間」は成長へのまたとない機会
このパートから、【スキルアップ】担当の〝キャリア〟が、新しくナビゲーターの仲間に加わります。

ねえ、キャリア。スモールビジネスってどうやって〝レベルアップ〟を測るの?

Qちゃん。それはね、〝どれだけ経験値を積んだか〟で決まるんだよ
たとえば、ゲームの世界でキャラクターが強くなるには、「経験値(EXP)」が欠かせません。バトルに勝ち、クエストをこなし、ときに寄り道や失敗を経て、経験値は少しずつ積み上がっていきます。
これは、スモールビジネスにおいてもまったく同じ。売上や規模の前に、まず考えるべきは、「いま、自分やチームはどれだけの経験値を積んできたか?」ということです。
では、その「経験値はどこで? どうやって増やすのか?」。これは決して、通常業務の中だけに留まるものではありません。もちろん日々の仕事の中で、たくさんの発見と学びはあります。しかしそれらの多くは、あなた自身が関わっている専門分野に限られます。
意外に思うかもしれませんが、成長のカギになるのは「余白の時間」にあります。
- 日々の業務の隙間にこぼれ落ちている「なんとなく」の時間
- ちょっと手が空いた、夕食後の30分
- 取引先との打ち合わせが終わったあとの雑談や帰り道
こうした〝余白〟のなかにこそ、成長の種が眠っているのです。
経験とは、何か大きなことを「成し遂げる」ことでしか得られないものではありません。むしろ、〝そのあと〟にこそ、経験は定着し、血となり肉となり、心にも宿ります。
たとえば、振り返り、記録し、仲間とシェアする。たったそれだけのアクションが、経験を〝蓄積された資産〟に変えるのです。
スモールビジネスでは、この「余白でどう過ごすか」が、のちの成果に大きな影響を与えます。
✓ どう感じたのか?
✓ 何を考えたのか?
✓ 次にどうつなげるのか?
この3つを自分に問い続ける姿勢こそが、経験値をよりよく活かす根幹です。
「忙しいから学べない」ではなく、「学ばなければずっと忙しいまま」。そう気づいたときから、成長の本当の旅が始まる──。
レベルを上げるために必要なのは、なにも新しい知識や派手な挑戦ばかりじゃない──「いまこの余白」を、どう使うか。その積み重ねこそが、真の経験値を育ててくれます。

最近つくづく思うんだけど…ただこなす毎日じゃ、全然レベルって上がらないよね

その通り。目の前の出来事を、ただの日常にするか、〝成長の素材〟にするか。選ぶのは、自分自身なんだ
最短かつ効果的に「経験値を積み上げる」 3つのポイント
1)「気づく力」が学びの種を発見する

キャリア。最近、毎日いろんなことに取り組んでるのに、全然成長してる気がしないんだけど…

それはね、Qちゃん。〝気づきのアンテナ〟が立ってないサインかも
スモールビジネスの現場では、日々あらゆる出来事が起こります。商品開発、事務処理、取引の交渉、クレーム対応、スタッフの声、小さな成功や失敗。
そのすべてが、実は〝学びの種〟に満ちています。その種に「気づけるかどうか」で、成長の差は大きく変わります。
気づきとは、ただ「知ること」ではありません。
「なぜそうなったのか?」「それは本当に正解だったのか?」「もっと良いやり方はなかったか?」──こうした〝問い〟が生まれる瞬間に、経験値は芽を出します。
学びは、「どこかにまとまって落ちているもの」ではなく、目の前の現実から「拾い上げていくもの」なのです。
スモールビジネスの成長は、この「気づく力」がどれだけ研ぎ澄まされているかに、大きく依存しているといっても過言ではありません。
そして、ここで忘れてはならないのが、「気づきのスピード」は人によって違う、ということです。
すぐに気づく人もいれば、数週間、あるいは数年経ってから「そうだったのか」と腑に落ちる人もいる。その「後からの気づき」を引き寄せるのは、まさに〝継続して取り組んでいる人〟だけに訪れる特権です。
たとえいま、成果や成長を感じられなかったとしても、歩みを止めず、経験を重ねること。その姿勢が、未来の「気づき」を迎え入れる土壌に、間違いなくなるのです。
つまり──「継続とは、気づきの準備をし続けること」。その積み重ねが、あなたの経験値を確実に底上げしてくれるでしょう。
2)振り返る習慣とリズムが描く成長曲線
経験値は、出来事の中に自動的に「溜まっていく」わけではありません。むしろ出来事の、〝そのあと〟の行動によって、初めて経験値として積み上がっていきます。
〝そのあと〟とは──振り返り、省みること
たとえば、同じ1日でも、振り返りをする人としない人では、積み重なるものがまるで違います。短くてもいい、5分で十分。今日あったこと、感じたことを、自分の言葉で書いてみるだけで、経験は〝ただ記憶〟から〝生きた成長〟へと変わっていきます。
この「振り返りの習慣」は、まるで成長の〝心拍〟のようなものです。脈が安定していれば、無理なく前に進める。ときに加速もできる。しかし、振り返りが止まると、成長の流れも乱れてしまうのです。

一日の振り返りをやらなきゃって思っても、つい忘れちゃうんだよね…

その気持ちわかるよ。でもね、成長は〝振り返った数〟と〝問いかけた質〟で決まるよ
日々の生活や仕事にリズムを生むように、振り返る時間を「習慣の一部」に組み込むこと。地味ですが、最も確実で、最も成果が得られる、レベルアップの方法です。
3)「共有と分かち合い」が、経験を知恵に変える
経験の質は、「誰かと共有した瞬間」に、もう一段階、深まります。自分が気づいたことや、うまくいった工夫、失敗した理由──そうした経験を、言葉にして誰かに「分かち合う」。この行動こそが、経験値の知恵化を加速させるトリガーになります。
なぜなら、人に話すことで自分の中で整理され、相手の反応や意見が新たな視点をくれるからです。さらに、分かち合う相手が〝成長を応援し合える仲間〟であれば、その関係性自体が経験値の上昇装置になります。
スモールビジネスにおける成長とは、ひとりで黙々と進むことだけではありません。
小さな発見、小さな振り返りを、誰かと「交換し合える場」をつくることで、経験の意味はぐっと深まり、記憶の定着化と知恵への変換が起こります。
「今日の経験を誰かと分かち合うことは、明日の誰かの道しるべになる」──そんなふうに、経験は静かに循環していくのです。
3つのステップ
スモールビジネスの実力は、「知識」の詰め込みよりも「実践知」によって磨かれます。では、限られた時間の中で、どうすれば最短で経験値を積み上げられるのか? ここでは、そのための3つのステップを紹介します。
① 小さな行動に「問い」を添える
経験値を増やすうえで、たいへん効果的なこと──それは、日々の小さな行動に「問い」を添えることです。
これがとても難しい。たとえば、こんな些細な出来事でも、問いを重ねるだけで、その質が一変します。
「なぜこの選択をしたのか?」「他にどんな選択肢があったのか?」「結果はどうだったか? どうすればもっと良くなったか?」
- 見積書を作成したあと:「この料金設定に自信はあるか? 顧客視点で見たとき、納得感があるか?」
- 新しい提案をクライアントに送ったあと:「伝えたい価値は、ちゃんと伝わっているか? 質問されたとき、自分は納得の答えを返せるだろうか?」
- スタッフとの会話を終えたあと:「あの返答で、相手は安心できただろうか? それとも、不安を残したままだろうか?」
- 売上が下がった月:「本当に外部要因だけが原因なのか? 自分たちが変えられる要素はなかったか?」
- 作業の工程を入れ替えたとき:「この工夫は、結果的に時間短縮につながったか? チームに広げる価値はあるか?」
こういった〝問い〟は、毎日が似たような流れに感じられるスモールビジネスの中に、「成長のヒント」を浮かび上がらせてくれます。「問いを添える」という意識は、行動に〝解像度〟と〝深み〟を与え、あなたの毎日を経験値の濃度が高い時間へと変えていきます。
大切なのは、「何か特別なことをした日」だけに問いを立てるのではなく、どんなに地味な日でも、問いを忘れないこと。派手な挑戦だけが経験を生むのではなく、日々の業務の中にこそ、成長の種は潜んでいるのです。
「行動をする → 問いを立てる → 気づきを得る → 成長につなげる」
この流れが習慣化されたとき、あなたは〝自分で自分のレベルを上げていく人〟へと進化していくことでしょう。
② 1日5分、経験を「自分の言葉」で書き残す──あなただけの「マイノート」
気づきを得たら、それを忘れないうちに「書き残す」こと。しかも、「自分の言葉で」。

今日あったこと、頭では覚えてるんだけど…何かまとまらなくて

それ、よくあるよ。だから5分だけでいいから、書くことで経験として定着するんだね
日々の学びは、頭の中に留めているだけではすぐに流れてしまいます。だからこそ、たとえばこんなふうに、
- 今日いちばん印象に残ったこと
- 自分の対応のどこがよかった/よくなかったか
- 明日へつなげたい気づき/行動
といった「小さな内省」を、自分の言葉で綴っておくことが大切です。それが、あなたの中の〝経験値〟を静かに育ててくれます。
さらに効果的なのが、自分専用の「マイノート」を持つことです。紙でもアプリでも構いません。こうした断片的な思考を、とにかく貯めておく場所。それが「マイノート」です。
マイノートは、あなたの中にある未整理の学びを、いつでも引き出せる「第二の脳」として機能します。時間が経った後、読み返して「あのときの問いが、いま腑に落ちた」と感じることもきっとあるはずです。「きれいに書こう」としなくていいのです。乱雑でも、矛盾していても、自分の言葉で綴ったものは、のちに驚くほどのヒントに変わります。
ポイントは安易に人に見せることなく、「自由に書くこと」です。そうすることで、ただのメモではなく、気づいたときには、自分だけの「経験の地図」が完成──。となっていることでしょう。
③〝獲得したもの〟を週1回、仲間に届ける
経験は、内側にためておくだけでは、やがて濁ってしまいます。だからこそ、外に出して、他者との循環の中で再び動かす──それが「届けること」の意味なのです。
有効的な方法は、経験を誰かと「分かち合う」こと。これが成長の加速ギアを数段階一気に上げてくれます。
週に一度でもいいので心がけてほしいことです。たとえば、スタッフミーティングやSNS、仕事仲間との雑談でもかまいません。「今週こんなことに気づいたよ」「この対応はうまくいった気がする」そんな小さなシェアが、他の誰かの成長を支えると同時に、自分の経験を〝知恵〟へと昇華させていきます。
経験は、分かち合うことで、磨かれ、深まり、広がっていく。それがスモールビジネスにおける、経験値の〝共同体〟的な価値のあり方です。

キャリア。自分の中では学びがあったけど、それってわざわざ誰かに言うことかな…?

もちろん。それがね、相手のヒントになるだけじゃなくて、自分の成長も確かめられるんだ
「行動に問いを添え、内省を言葉にし、他者に届ける」──このサイクルを回し続けることで、あなたの経験は「点」から「線」へ、そして「面」となり、やがて確かな強みとして積み上がっていくもの。
レベルアップとは、派手な出来事の積み重ねではなく、〝目の前の出来事への姿勢〟によって得られる、小さな勝利の連続なのです。
経験値を「資産」にする──スモールビジネスの成長プロセス設計
経験とは、ただ積み重ねていくだけでは「資産」にはなりません。
スモールビジネスにおいて、真に価値ある経験とは──活用できる形でストックされ、意思決定や仕組みに変換されていくものを指します。
つまり、「経験を資産にする」とは、感覚のまま持ち続けることではなく、「構造化・再現可能にする」こと。これこそが、スモールビジネスに必要な成長プロセス設計の本質なのです。
経験を「行動→気づき→定義化」する
まずは、自分やチームの経験を、「気づき」の段階で終わらせず、「これはどういう原理でうまくいったのか?」という視点で、言語化→定義化していくことが必要です。成功も失敗も、ただの感想で終わらせずに、再現性ある「学びの要素」へと落とし込みましょう。
ストックする仕組みをつくる
ノートでも、ドキュメントでも、チームの会議記録でもかまいません。大切なのは、学んだことを「どこに、どのように溜めていくか?」という成長ログの設計です。
- 個人用マイノート
- チーム共有フォルダ
- 定例ミーティングの振り返りシート
こうした情報の〝記録スタイル〟が、自然と「育成の型」や「強みの型」をカタチづくっていきます。
規模の小さなスモールビジネスでは、個人用「マイノート」の作成がおすすめです。
経験を「仕組み」へ変換する
最後に、経験を〝行動ルールや運用オペレーション〟へと変換していきます。「気づいたこと」が、「次の人に伝えられるルール」や「改善された業務手順」へと姿を変えるとき──その経験は、個人の感覚から、事業の土台になります。ここまで来て初めて、経験値は「資産」として循環し、事業の強さになっていくのです。
たとえば、チーム内で定期的に「学びの共有会」や「月次の改善報告会」を設けるだけでも、経験は個人の中だけに留まらず、組織の資産へと変わっていきます。
小さな経験が、「長期資産」になる
スモールビジネスにとって、成長とは必ずしも「規模の拡大」ではありません。それはむしろ、「学びの深度」と「気づきの再現性」を高めていくこと──すなわち、「経験値をどう設計し、資産に変えるか」という旅に他なりません。
成長プロセスは、目に見える数値だけで測るものではなく、「学びが積み重なり、活かされているか?」という内面的な設計に宿ります。
「続けること、続けられる仕組みをつくること、続けるからこそ収益が安定する」
経験を「長期資産」に。それは、あなたの歩みを「強さ」に変え、チームの営みを「文化」に変え、事業の歩みに「軌跡」を刻んでいく営みです。そしてその軌跡こそが、モールビジネスという旅を、「あなたならではの成長物語」に変えていくのです。
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寺本 智(てらもと さとし)
小規模経営学者│スモビジ大学長│小さいからこそ「個性と安定が両立」する『小規模経営学』を体系化│スモールビジネス分野で、教育・コンサルティング・小説を執筆│スモールビジネスコンサルタントとして、10年以上にわたり、従業員0人から20人まで(商業・サービス業は基本5人以下)の小規模企業を200社以上サポート。
活動理念は、『小さな事業を大きな主役へ』。一人ひとりが持つ個性と、経済的な安定。この2つが両立する――そんな〝小さな経営の在り方〟と、スモールビジネスを200社以上サポートした実体験から得た、「小さくても大きな成果を導くことができる」独自の文法を、小規模事業の【6つのフェーズ】と【6つのカテゴリー】に合わせて体系化。
ビジョンは、小さな事業が大きな主役となり、『個性と安定が、両立する社会』――「一億総スモールビジネス」。
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