第1話【焦点人物:坂本太郎】金融機関との関係性──中小企業を支える融資担当者の覚悟から学ぶことは何か?|『陸王』に学ぶ、小さな会社の勝利学

もくじ
『小さな事業を大きな主役へ』ようこそ、スモビジ大学へ! こんにちは、皆さん! 学長の寺本 智(てらもと さとし)です。
私は、スモールビジネスの領域で、『小規模経営学者』として活動しています。専門は、従業員0人から20人までの小規模経営。
一人ひとりが持つ個性と経済的な安定。この2つが両立する――そんな〝小さな経営の在り方〟と、実体験から得た、「小さくても確かな成果を生み出す」実践の文法を、『小規模経営学』として体系化し、教育――〝学びのカタチ〟で届けています。これは、日本で唯一の学問。小規模事業にとって重要な実践知を集めた、『日本初のスモールビジネス経営学』です。
ビジョンは、そんな個性と安定が両立する社会の実現と、経営の民主化を目指す「一億総スモールビジネス」――。
また、私自身の背骨となっている専門職「スモールビジネスコンサルタント」としても活動し、10年以上にわたって200社以上をサポートし、500を超えるの案件を達成してきました。
細かくお伝えすると、これまでにサポートした企業は230社(現在も支援企業、増加中)です。中には「1,000社以上サポートしました!」という方もいますが、小規模企業の多岐にわたる課題に本気で向き合うと、この数字が限界だと実感しています。
『陸王』に学ぶ、小さな会社の勝利学──〝人の力と物語〟が、逆境を超える経営を生み出す!
まず最初に、本連載をご覧いただくにあたり、著作権への配慮や本稿の読み進め方について触れた「第0話」をご案内します。
まだご覧になっていない方は、ぜひ先に▼こちらをご一読ください。
※すでに「第0話」を読まれた方は、このまま本文へお進みください。
▶ ドラマ【第1話】のあらすじ──倒産寸前の足袋屋が大企業と悪銀行に挑む!
埼玉県行田市にある足袋製造会社「こはぜ屋」。その四代目社長・宮沢紘一(役所広司)は、年々先細る足袋の需要から今日も資金繰りに頭を悩ませていた。
そんなある日、メインバンクである埼玉中央銀行へ、追加融資の相談に訪れた宮沢。なんとか今回の稟議は受け付けてもらえたが、融資担当の坂本(風間俊介)から、新規事業に踏み出してみてはどうかと提案をされる。
突飛な話だったためその場は軽く応えた宮沢だったが、「こはぜ屋」の存続がかかっているテーマだけに、真剣に考えはじめると、ほどなく、あるきっかけで新規事業について閃く。それは、足袋製造会社としてこれまで培った技術が活かせる〝裸足感覚〟を追及したランニングシューズの開発だった。

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早速動き出した宮沢は、スポーツ用品店の店主でランニングインストラクターの資格を持つ有村融(光石研)を坂本から紹介されると、有村は愛知県豊橋市で行われる国際マラソン選手権を見に行こうと宮沢を誘う。
学生時代にライバルとしてしのぎを削っていた実業団ランナー・茂木(竹内涼真)と毛塚(佐野岳)が出場することで話題となっている豊橋国際マラソンだ。宮沢は息子の大地(山﨑賢人)とともに豊橋へ向かった。
▶ 本話(本稿)の主人公【坂本太郎】
坂本太郎は、ただ業務をこなすだけの銀行マンではなく、中小企業の未来を本気で支えようとする情熱的な存在です。

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彼は、こはぜ屋のような小さな企業に真摯に向き合い、ただの融資先としてではなく「一緒に成長を考えるパートナー」として行動しようとします。
しかし、その熱意が原因で銀行上層部との方針と衝突し、こはぜ屋の担当から外されてしまうという展開になります。
この対立は、情熱を持った銀行マンと、組織としての銀行の論理の間で起きる典型的な葛藤を象徴しています。
また、坂本と対照的な存在として大橋融資課長がいます。彼はより保守的で、組織のルールや安定を重視するタイプ。坂本との対比を通して、情熱と現実のバランスが浮き彫りになり、視聴者に「経営における信念とは何か」を問いかけます。
このように坂本太郎の物語からは、ただ融資を受ける/提供するという関係を超えて、いかに人と人との信頼や情熱が中小企業の成長に影響するかを学べるのです。
▶ 勝利学「3つの起点」──坂本太郎のここが凄い!
『陸王』の物語において、こはぜ屋の奮闘を陰で支えたのが埼玉中央銀行・行田支店の融資担当、坂本太郎です。影のMVPといっても過言ではありません。
銀行員という立場を超え、情熱と信念を持って中小企業を支える姿は、経営者にとっても多くの気づきを与えてくれます。彼の行動から浮かび上がるのは、小さな会社を勝利へと導くための「3つの起点」です。

① 情熱で壁を越える行動力が、企業を動かす力に
坂本の情熱は、単なる融資の可否を超えた〝現場に踏み込む力〟でした。彼が銀行の倉庫で眠っていた「シルクレイ」を発見したことが、特許所有者・飯山晴之との運命的な出会いを生みます。この一歩がなければ、こはぜ屋の挑戦は始まらなかったでしょう。
「坂本さんの置き土産だ...」この、行動の種こそが『陸王』の完成へ多大な貢献をしたことは間違いありません。
さらに担当を外された後も、宮沢のそばに立ち続け、金融マンとしてできる限りの行動を取った。その姿勢は、数字だけでは測れない情熱が、企業の未来を動かす原動力になることを示しています。
② 伴走者としての覚悟が、経営者を支える絆となる
坂本の真価は、経営者と〝並走する覚悟〟にありました。
苦境に立たされ意気消沈する宮沢に向かって、「諦めるんですか?」「宮沢さん、あなたはどうしたいんですか?」と問いかける場面は、その象徴です。
これは単なる励ましではなく、経営者自身の意思を試す問いかけ。伴走者でありながら、ときに厳しく背中を押すその姿は、リスクを共に引き受ける覚悟があってこそ生まれる真の支援関係だといえるでしょう。
③ 信念と組織の間で迷い揺れながらも──貫く芯が未来へのバトンに
銀行という巨大組織の論理と、自らが信じた企業を支えたい想い。その狭間で葛藤した坂本は、やがて投資会社へと転職します。
それでもなお、こはぜ屋のために奔走し、買収提案や資金繰りの道を模索する中で、フェリックスという新たなビジネスパートナーを見つけ出しました。
結果的に坂本の行動が、こはぜ屋にとって未来への突破口を開いたのです。信念を曲げずに貫いた芯が、〝次の時代へとつなぐバトン〟となったといえるでしょう。
「僕に走らせてもらいませんか?」──行田市民駅伝に『チーム陸王』と共に走るシーンでの台詞。
この言葉に一片の曇りもないのが、坂本太郎という人物なのです。
▶ スモールビジネスへの応用
坂本太郎の姿から見えてくる「3つの起点」は、そのまま小さな会社の経営現場で実践できる学びです。
- 情熱で壁を超える行動力──資金、人材、取引先。中小企業は常に制約の中で戦っています。だからこそ、限られた条件を超えて一歩を踏み出す「情熱の行動」が突破口になります。数字だけでじゃない〝想い〟が、人との出会いや新たな資源を引き寄せるのです。
- 伴走者としての覚悟──経営者は孤独であり、時に心が折れそうになる瞬間もあります。そんなときに「諦めるんですか?」と真正面から問いかけてくれる伴走者の存在は何より心強い。スモールビジネスにおいては、金融機関や支援者、そして従業員がこの役割を果たすことができます。
- 迷いながらも貫く芯──経営判断に迷いはつきものです。しかし、最後に「これだけは譲れない」という芯を貫けるかどうかが、会社の未来を決めます。坂本がこはぜ屋のために道を切り拓いたように、信念は次の時代へとつながるバトンとなります。
これらは華麗な戦略論ではなく、日々の経営現場での意思決定や人との関わりの中から生まれるものです。
小さな会社にとっては資本や規模で大企業に勝つことは難しくても、情熱をもって動き、伴走者と共に歩み、信念を貫くことで逆境を超えるチャンスが必ず現れます。
本連載『陸王に学ぶ、小さな会社の勝利学』が伝えたいのは、まさに「人の力と物語が経営を動かす」という視点です。
坂本太郎から見えてきた学びを胸に、次回は技術者・飯山晴之の物語へと進み、さらに深い応用を探っていきます。
▶ あなたへの問い──経営に引き寄せて考えてみませんか?
本稿で整理した「情熱で壁を越える行動力/伴走者としての覚悟/迷いながらも貫く芯」という3つの起点を、ぜひあなた自身の現場に当てはめてみてください。
問いはシンプルですが、紙やノートに「こたえ」を書き出すことで、経営の意思決定が一歩進みます。
- 情熱で壁を越える行動力
あなたが「熱意をもって動けば道が拓ける」と感じている課題は何ですか? その最初の一歩を、今週どのように形にしますか? - 伴走者としての覚悟
あなたにとって、共に走ってくれる存在は誰ですか? 逆に、誰かの伴走者として支えられる場面はありますか? その関係性をどう育てますか? - 迷いながらも貫く芯
経営の中で「これだけは譲れない」と心に決めているものは何でしょうか? その芯を、今日の意思決定でどう守り抜きますか?
◉ 次回のご案内【焦点人物】飯山晴之|【キーワード】技術と執念
次回の第2話では、シルクレイを生み出した技術者・飯山晴之に焦点を当て、技術と執念がどのように小さな会社の挑戦を後押しするのかを掘り下げます。
そして──この『陸王』という物語から得た気づきを、より体系的に学び、あなたのビジネスとキャリアに本格的に活かすなら──スモビジ大学が開講する 「SMBA/小規模経営学修士」 で、次の一歩を共に踏み出しましょう。


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『陸王』について、TBS公式 原作ページはこちら。
ドラマ版は現在(2025年 10月)、Netflixで配信されています。