Lv.2  理想の世界を描く/ビジョンを設定する【経営・企画】

世界は自分と自分以外が共存する時間と空間

 ビジネスを進めるうえで重要なのは、「自分だけの世界」ではなく、「自分と自分以外の世界が共存する時間と空間」を意識することです。
 何だか「俺か、俺以外か」の名言のようですが、とても大事な意識の置き方なのです。なぜなら、あなたが事業で描くビジョンは、単に「こうなりたい」という願望だけでなく、あなたが存在する世界と、どのように関わり、どんな価値を提供するか? を含めたものだからです。スモールビジネスは、社会や顧客とのつながりの中で成り立つもの。だからこそ、「理想の自分」だけでなく、「自分を取り巻く環境」との相互作用を考えることが不可欠です。
 たとえば、「独立して自由に働きたい」と考えたとき、それはどのような環境の中で実現されるのか? オンラインで仕事をするなら、どんな顧客とどう関わるのか? 地域密着型の事業を考えるなら、どんな人々とどう支え合いながら成長するのか? こうした「時間」と「空間」の視点を持つことで、あなたのビジョンはより具体的なものになります。

質問Qちゃん

えっ? ビジョンって自分のことだけじゃないの?

勇者プレナー

人との関係性を考えることで、自分のビジョンの輪郭がはっきりしてくるんだね

ビジョンは未来へ向かうための地図

 スモールビジネスにおいて、ビジョンは単なる夢ではなく、「未来地図」です。
 目的地を明確に定めることで、日々の選択や行動の指針となります。ビジョンがないと、目の前の課題やトレンドに振り回され、短期的な利益ばかりを優先してしまうことがあります。しかし、明確なビジョンを持っていれば、長期的な視点で一貫した行動が取れるようになります。
「地域に貢献したい」というビジョンがあるなら、目先の利益だけを追うのではなく、長く愛されるビジネスモデルを考えることができます。また、「自分のスキルを活かして価値を提供したい」と考えるなら、顧客との関係性を深め、継続的な価値提供ができる仕組みを構築する必要があります。我々が旅行に行くとき、より良い旅ができるよう、目的地の地図を持つのと同じことです。

「誰のために、どんな価値を届けるのか?」を考える

 スモールビジネスの成功は、「自分だけの理想」ではなく、「社会や他者にとっての価値」を見極めることから始まります。

「自分にとっての理想の未来」を描く
「その未来が、誰にどんな影響を与えるのか?」を考える
「どんな価値を提供し、どんな変化を生み出したいか?」を言語化する

 このように、自分の理想だけでなく「他者と共存する世界観」を持つことが、スモールビジネスのビジョンには欠かせません。
 ビジョンとは、あなた自身の指針でありながら、関わる人々と共に歩む未来を描くものなのです。

ビジョンの設定とは、「未来地図」を描き目的地へ向かうこと――18の価値観キーワード 3つのポイント

1)「意志」と「能力・環境」を分けて考える

――なりたい自分を叶える「宇宙船」をつくる――
 理想の未来へ向かうためには、まず「なりたい自分を叶えるための船(宇宙船)」を準備する必要があります。ここでいう船とは、あなたが目的地に到達するために必要な「能力」と「環境」を指します。

 ここで重要なのは、船長である「あなたの意志」と、実際に航行する「船の性能」を分けて考えること。

質問Qちゃん

船長の意志と船の性能を分けるって、どういうことなの?

勇者プレナー

自分のモチベーションと、能力や取り巻く環境を分けて冷静に確認するってことなんだ

 これによって、自分の限界や現在の状況を客観的に評価し、必要な改良や調整を施すことができるからです。ビジョンの達成には強い意志が必要ですが、それだけでは足りません。実際に行動するためのスキルや知識、環境の整備が伴わなければ、目指す場所には到達できないのです。

船(宇宙船)の設計図:4つの要素

  • 健康 → 体力やメンタルの安定が行動力を支える
  • 人間関係 → 志を共有する仲間や協力者が必要
  • 経験・職歴 → 過去の経験やスキルを活かす
  • 資産 → 資金やリソースをどう活用するか

 あなた自身はこの宇宙船の船長です。意志が強くても、船がボロボロでは目的地にたどり着けません。逆に、どれだけ高性能な船を持っていても、船長の意志が曖昧なら、行き先を見失ってしまいます。だからこそ、「意志」と「能力・環境」を分けて考えることが大切なのです。

2)「どの世界を進みたいのか?」を考える

 素晴らしい船を手に入れても、「どこへ向かうか?」が決まっていなければ意味がありません。また目的地を決めなければ、どこにもたどり着きません。
 あなたがどのフィールドで、どのような役割を果たしたいのか? どんな人に、どんな変化をもたらしたいのか? これを明確にすることで、ビジョンが具体的なものになります。
 どんな分野で自分は最大限の価値を発揮できるのか? これは、あなたのスモールビジネスが「どんな場所で、どんな人たちと、どのように成長していくのか?」を考えることと直結します。

「どこを航海し、どこへ向かいたいのか?」

 この問いに対し答えを考えることで、あなたがどういった分野で活躍したいのか? を導いてくれます。
 無計画な航海は遭難を招くように、目的地が明確でないと、日々の選択や行動が迷走してしまいます。自分が活躍する「フィールド」を決め、どの市場や分野で価値を発揮するのかをしっかりと考えることが、成功への地図を描くことになります。

3)価値観に沿った行動をする

――自分だけの「羅針盤」を持つ――
 ビジョンを持つことは重要ですが、それを実現するためには「価値観」という「羅針盤」が必要です。
 自分の価値観が明確であれば、判断に迷うことなく、ブレずに行動することができます。

羅針盤を持つ2つの視点
✓「自立」と「自律」の違いを理解する
 自立 → 外部に依存せず、自らの力で技能的・経済的・身体的に独り立ちすること
 自律 → 自身の価値観に基づき、状況に左右されずに主体的に行動できること

質問Qちゃん

自立と自律の違いを理解することが重要なのね

勇者プレナー

そうなんだ。読みは同じでも意味がまったく違うからね

✓ 信念に縛られすぎず、柔軟性を持つ
 価値観は大切だが、時には状況に応じて進む方向を微調整することも必要。目標を変えずとも、ルートは柔軟に変えられる

 行き先が決まっていても、方向感覚がなければ、迷走してしまいます。だからこそ、自分の価値観を明確にし、常に「何が本当に大切か?」を意識しながら進むことが、ビジョンを実現するために不可欠なのです。
 ビジョンの設定とは、ただ未来を描くだけではなく、「そこに向かうための準備・選択・行動」をセットで考えることが最も重要です。

3つのステップ

 それでは、あなたの価値観を反映しながら現実的に進むべき道を定め、迷わず前進するための3つのステップを紹介します。

① 航海する船のつくりかた

「船づくりに必要な4つの要素」
 あなたが理想の世界に向かうためには、まず「自分自身を船」として捉えることが重要です。この船をつくるには、次の4つの要素を整えることが必要です。

1.健康
 船の耐久性にあたるのが「健康」です。持続可能なビジネスの基盤であり、体調やメンタルの安定がなければ、航海を続けることは困難になります。人生においても全く同じことがいえるので、「健康」が最も大事です。

2.人間関係
 船の部屋数にあたるのが「人間関係」です。支え合えるネットワークの有無が、事業の持続性や成長に大きな影響を与えます。

3.経験・職歴
 船の装備にあたるのが「経験・職歴」です。過去のキャリアや学びが現在のビジネスにどう影響を与えているかを整理することで、自分の強みを再認識できます。キャリアと経験の棚卸しはとても重要です。

4.資産
 航海に必要な燃料が「資産」です。資金・設備・知識など、これまで築き上げてきたリソースが、航海の持続可能性を左右します。

 まずはこの4つの要素をもとに、自分の「船」がどんな状態なのかを客観視しましょう。そこから、強化すべき部分や活かせる資源が見えてきます。

質問Qちゃん

確かにこの4つはとても大事だわ!

勇者プレナー

この4つの要素が自分自身を形成してるといっても過言じゃないからね

 船長という自身の「意志」やキャラクターと、「船の性能を」を分けて考えてみてください。また現状で〝弱み〟があっても大丈夫です。なぜなら、物語(人生)において弱点は共感を生む可能性があるからです。

② 4つのヒントから専門分野を見つける

 自分の「船」がどのような性能を持つかがわかったら、次はどこに向かうのかを決める「航路設定」です。どんなに頑丈な船をつくっても、航海すべき海が見つからなければ出航できません。
 では、どの分野で活動していくのかを決めるために、以下の4つを実践しましょう。

質問Qちゃん

船の進む場所を決めるってこと?

勇者プレナー

そうだね。自分が進みたい〝フィールド〟の発見ということなんだ

✓「好きなことを考える」
 まずは夢中になれることを見つけます。自分が楽しめる分野こそが、専門分野になりやすいからです。

✓「コンプレックスを考える」
 過去苦手だったことや克服したいことは、実は強い原動力になります。これを乗り越える経験が、独自の価値を生み出します。

✓「興味のあることを探す」
 いま、興味を持っていることも成長のヒントになります。専門分野は固定されたものではなく、社会のニーズに沿って変化していくものだからです。

✓「人脈との共通点を知る」
 社会との関わりの中でどの分野に貢献できるかを考えます。自分だけでなく、他者との接点も専門分野を決める重要な要素です。

 各項目3つずつ考えるのがポイントです。この4つの視点から、専門分野のヒントを発見し、「どこを航海するのか」を明確にしましょう。

③ 価値観を明確にする方法・ミッションステートメント

「18の要素を活用して、価値観を明確化」

 船の状態を把握し、航路を決めたら、次は航海の羅針盤(価値観)を明確にします。「価値観」とは、自分の判断基準や行動の方向性を決める基盤です。それを明確にするために、以下18の要素を使います。

――価値観を導く18のキーワード――

  • 自己(成長・表現)
  • 健康
  • 時間
  • 家族
  • パートナー
  • 友人
  • お金
  • 所有物
  • 情報
  • 仕事
  • 仕事仲間
  • 趣味・娯楽
  • 住居・住む場所
  • 地域・故郷
  • 社会・国際情勢
  • 地球・環境
  • 次世代

 次にこれらを3つの階層に分けます。そのように考え設定することで、自分が何を大切にしているのかが明確になります。
 なぜ3つの階層に分けるのか? この作業を行うことで、あなたの価値観の優先順位が明確になり、意思決定の軸が発見できるからです。

18の価値観を3つの階層に整理しよう:各階層6つずつキーワードを選択する

✓ ドラフト1位:最も大切にしていること
「活動指針の基盤」となる、これだけは譲れない価値観
✓ ドラフト2位:重要だが、1位ほどではないこと
「1位を支える要素」あった方が良い軸
✓ ドラフト3位:あまり気にしなくてもいいこと
「こだわらなくてもよい要素」

 この要素を3つの階層に設定することで、あなたが大切にしている価値観の優先順位を認識するこができます。これが行動指針の軸となるわけです。
 そのときの状況や時間経過でも、この価値観ドラフトは「変化」します。重要なことは日々これを眺め、自分と向き合うことです。

質問Qちゃん

こんな方法で自分の価値観が整理できるのって知らなかったわ!

勇者プレナー

これはすごく役に立つよ! すぐにできるから、ぜひやってみてね

ミッションステートメントをつくる

 最後に、価値観をもとに、短い文章でミッションステートメントを作成します。
たとえば…
「自分と家族を幸せにしながら自由に生きる」(19文字)

 シンプルかつ覚えやすい言葉で、自分の行動指針を表す一文を作成しましょう。このように「何のために行動するのか」を明文化すると、判断に迷ったときの基準になります。
 あなたも20文字以内で、自分のミッションステートメントをつくってみましょう。それがブレないビジネスと人生を築く土台になります。

専門分野という航路を進み、たどり着く自分だけのビジョン

 ビジネスを成功させるためには、「どんな分野で活躍するか?」を明確にすることが欠かせません。これは単に業界や業種を選ぶという話ではなく、「自分の強みをどの〝フィールド〟で最大限に活かすか?」という視点で考えることが重要です。
 スモールビジネスでは、大企業のように幅広い市場を狙うのではなく、「あなたにしかできない価値」を必要としている人に届けることが成功のカギになります。そのため、「自分がどの世界で、どのような影響を与えたいのか?」を意識することが、ビジョンの設定に大きく関わることになります。

 ビジョンとは、「こうなりたい」という願望だけではなく、「自分がどの社会にどのような影響を与えたいのか?」を考えることでもあります。
たとえば…

  • 「高齢者の生活を支えたい」 → 介護・福祉、リハビリ、訪問看護など
  • 「旅行や観光の魅力を伝えたい」 → 観光業、ガイド業、ツアープランナー、地域活性ビジネスなど
  • 「食を通じて価値を提供したい」 → 飲食業、食品販売、農業、フードコンサルティングなど

 ビジョンが明確になれば、それに沿った専門分野の選択が自然と定まり、あなたにしかできない「唯一無二のビジネスモデル」も見えてきます。

専門分野の選択は、自分だけのビジョンをつくること

 スモールビジネスの強みは、「経営者自身がブランドであり、ビジョンの一部になること」にあります。
 同じ業種のビジネスでも、「あなたがやるからこそ意味がある」という世界をつくることができるのです。ビジョンが単なる「未来の理想」で終わらないためには、「どの分野でどのように価値を提供するか?」を具体的に決め、そこに向かって行動し続けることが重要になります。
 ビジョンは遥か遠くにある目標だけでなく、「いまの自分が進むべき道を照らす灯台」のようなものです。その灯台を頼りにしながら、自分らしい航路を進み、たどり着くべき未来を築いていきましょう。


 それでは、次のレベルへご案内します。

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 私には、「経営に失敗」した過去があります――。  サラリーマン時代、広告の営業職で成績は良く、25歳で独立。商業施設のイベント業を手がけながら、飲食店を経営してい…

寺本 智(てらもと さとし)

 小規模経営学者 | スモビジ大学長 | 小さいからこそ「個性と安定が両立」する『小規模経営学』を体系化 | スモールビジネス分野で、教育・コンサルティング・小説を執筆 | スモールビジネスコンサルタントとして、10年以上にわたり、従業員0人から20人まで(商業・サービス業は基本5人以下)の小規模企業を200社以上サポート。

 活動理念は、『小さな事業を大きな主役へ』。一人ひとりが持つ個性と、経済的な安定。この2つが両立する――そんな〝小さな経営の在り方〟と、スモールビジネスを200社以上サポートした実体験から得た、「小さくても大きな成果を導くことができる」独自の文法を、小規模事業の【6つのフェーズ】と【6つのカテゴリー】に合わせて体系化

 ビジョンは、小さな事業が大きな主役となり、『個性と安定が、両立する社会』――、「一億総スモールビジネス」

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